2023.12.21
エイナはデスクに広げられた報告書をまとめ、ふぅと一息ついた。
周りでは、同僚達がぽつぽつと帰宅していく。
天井近くの壁にかかっている時計は夜の八時を回るところ。窓口を隔てギルドのロビーと隣接する事務室は、残業組の職員だけを残し、すっかり空白が目立つようになっていた。
飲み物でも淹れてこようかな、とエイナが思っていると、同じ受付嬢の友人が部屋の奥で声を散らしてきた。
「ふぇ~ん、エイナぁ、手伝ってぇ~! こんなの明日になっても終わりっこなーい!?」
「……自業自得。今日まで何もやってなかったミィシャが悪い」
嘆息し、ヒューマンの友人の泣きごとをにべも無く断る。
ミィシャと呼ばれた童顔の女性職員のデスクには、書類という書類が山積みされていた。各【ファミリア】の神達がこぞって請求した資料が、本人の職務怠慢によって静かに蓄積されていた結果だ。
原因が原因だけに、エイナも手を貸してやるつもりは毛頭ない。少し痛い目に会った方がいいだろうと。
「何で今期はこんな【ランクアップ】した人が沢山いるのぉ!? 神会の目前にこんなレベルアップラッシュ、酷い~!? 誰かの陰謀だよー!?」
「こら、冒険者の血と汗の結晶をそんなこと言わない。最初からコツコツやっておけば、こんなことにならなかったでしょう?」
「ハイ、反省してますっ、反省してるからっ……エイナ、助けてー!?」
「いーや」
話は終わりというように背を向けた。
「薄情者ぉー!」と飛んでくる文句にもう一度溜息をつきながら、後でコーヒーでも持っていてあげようかなと思うエイナだった。
「……」
作業による疲労の余韻に浸るように、肘をついた両手にほっそりとした顎を乗せ、エイナは今しがた書き終えた眼下の紙を眺めた。
申請書、と書き綴られた用紙には、【ソーマ・ファミリア】の運営自粛を勧告するべきという旨が記されている。
ロキとベルの話を聞いて作り上げてしまった、自筆の報告書だ。
エイナは【ソーマ・ファミリア】を裁こうとは思わない。勿論思うところはあるが、【ファミリア】内におけるずさんな管理を糾弾しようなどとは、露にも。
そもそも裁断うんぬんを語るなら、ベルの話に出てきたリリというサポーターもまた、公平の立場から見れば罰せられる側だ。情状酌量の余地はあれ、罪は問われることになる。
エイナは正義の女神を気取るつもりは更々なかった。少なくとも、それは自分の犯すべき領域ではないと思っている。
ただ、である。
一つの状況が改善されることで、冒険者やサポーターの環境に光が差し込むなら……差し出がましい真似をすることに躊躇はない。
冒険者達がダンジョンから無事帰還することを何より望むエイナは、どうしてもお節介を焼きにいってしまう。
(特定の【ファミリア】に肩入れしちゃってる時点で、言い逃れなんてできないなぁ……)
ある種の密告めいた報告に、私情が大いに絡んでいることはエイナにも自覚がある。
特定の【ファミリア】……つまりベル達だ。結果的に見れば、エイナはあの少年を気遣う形で【ロキ・ファミリア】に潜入するような真似をし、そして故意に【ソーマ・ファミリア】を陥れようとしている。
表面上は中立を謳うギルドとしてはあるまじき行為だ。ベルから相談を聞き、客観的にアドバイスを送るのとはまたわけが違う。
職権乱用。ギルドの一員として失格といえた。
しかし、
(……でも、見捨てるのはもっと違う)
例えギルドの職員として相応しくなくとも、エイナは“エイナ・チュール”として失格にはなりたくない。
詭弁に過ぎずとも、もう決めた。
自分の中に流れる、リヴェリアと同じ高邁な血。半端なエルフのちっぽけな誇りであったとしても、エイナはそれに背きたくない。
(もし解雇にでもなっちゃったら……ふふっ、【ヘスティア・ファミリア】に加入させてもらおうかな、なんて)
手に顎を乗せたまま、ほわりと笑う。
エイナにとって深刻な問題である筈なのだが、どうしてか、その深刻さに比例するように周囲の空気が甘く緩み出す。
髪がかかる背中から、機嫌の良さが滲み出ていた。
「どうしたの、エイナ? 急にニヤニヤなんかしちゃって」
「にっ、にやにやなんかしてないよ! 出まかせは止す!」
「いいからいいから、何かあったの? 気になるぞぉー」
「別に……ちょっと、再就職先のことを考えてただけで……」
「再就職先、って……嘘! エイナ、ギルド辞めちゃうの!?」
ミィシャが声を張った瞬間、『ガタッ!?』と他の職員が一斉に椅子から立ち上がった。全員男性である。
一糸乱れのない光景にエイナはぎょっと目を奪われながら、慌てて友人の勘違いを正す。
「ち、違う違う。もしギルドをクビにされちゃったら、っていう話。私から辞職するつもりはないよ」
「何だぁ、驚かせないでよ……。エイナが辞めさせられるなんて、あるわけないない」
エイナは友人の言葉に、そうでもないんだけどなぁ、と苦笑の思いを抱く。
一方立ち上がっていた男性陣は、『ふぅ……』と安堵とも知れぬ息を吐いて着席した。
(まぁ、とにかく……)
この報告書が上に通れば、少なくとも神ソーマは【ファミリア】管理の問題を取り上げられることになるだろう。
もともと【ファミリア】自体に問題はなくとも、構成員である冒険者達はホーム外の活動が黒に近いグレーなのだ。ベルの証言から得られた市民の被害報告を添えれば、多少のペナルティはほぼ確実になる。
警告を無視すれば、場合によってはオラリオからの強制退去、【ファミリア】存続の危機だ。
ロキから“趣味神”などと呼ばれるソーマも、運営方針を真剣に考えざるを得ないだろう。
(アーデ氏も悪いパルゥムじゃないみたいだし……)
リリと【ファミリア】のいざこざに巻き込まれた花屋を訪問してみた所、老夫婦はばつが悪そうに教えてくれた。
少女を追い出したその日を境に、店の前にいつの間にかお金が置いていかれるようになったのだと。
ギルドに被害届けを出すのも、そのせいでできなくなってしまったらしい。
彼等から頼まれた少女への謝罪の言葉を、エイナは受け取らなかった。それを渡すのは本人達の仕事だ。
(……冒険者の血と汗、か)
先程口にした言葉をエイナは反芻する。
どこか遠くを見るように、瞳を少し上に向けた。
(冒険者達が足元で誰かを踏みつけているなら……その血と汗は、その誰かのものでもあるんだよね)
ままならないなぁ、とエイナは思う。
冒険者の無事を願うエイナは彼等をサポートしたい。けれどその思いを揺るがすように、彼等の中には看過できない事柄を平気な顔で犯す者達もいる。
例えば平気でサポーターを見捨てたという話を聞いた時には、綺麗事では済ませないし、庇えない。
二律背反する複雑な感情。今回に限った話ではない、エイナは時々自分のやっていることが虚しく感じるときがある。
とても許容できない話を聞いてしまうと、本当に、自分の立っているこの場所がぐらついてしまうのだ。
考え過ぎだということはわかっているのだが、一抹のやるせなさを抱いてしまう。
「……チュール」
「あ、はい?」
答えの出ない思考にはまっていたエイナだったが、かけられた声に顔を上げた。
窓口から近いデスクに座っていた男性職員が、ちょいちょいとロビーの入口を指している。
エイナの視線が向くのと同じタイミングで、ベルがギルド本部に入ってきた。
「……すいません、ありがとうございます」
エイナは頭を下げて席を立った。
曇りかけていた顔が心無し、清く晴れている。
少し駆け足でフロントの方まで出向かう。
(……でも、必死に頑張っている冒険者も、ちゃんといるんだよね)
ぴょこ、とフロントから顔を出したエイナを見た途端、ベルはぱっと笑みを咲かせた。
エイナもにっこりと笑って手を振る。
やはりエイナは冒険者達が好きだ。
大勢があれくれ者であるが、気さくで細かいことを気にしない彼等を、見ていて気持ちのいい彼等を、好ましく思っている。
サポーターを見殺しにする利己的な冒険者がいたとしても、そのサポーターを救ってくれるのもまた、同じ冒険者なのだ。
そんな冒険者達のためなら、エイナは例え免職されようが憂鬱になろうが、身を粉にできる。
彼等を死なせたくないというこの気持ちに嘘はない。
自分が受け持つ半人前の冒険者の顔を見て、エイナはそう思えた。
(良い人は先に死んじゃって、悪い人が生き残っちゃうなんて言うけど……)
エイナは信じたくないし、信じない。
少なくとも死なせないように、エイナは今を頑張っている。
それに、その“迷信”はあてにもならない。
ここは迷宮都市。
何が起こるかわからない、世界で一番気まぐれな都市だ。
ゲド・ライッシュは立ちつくす。
「カ、カヌゥ!? 待っ――ぁ゛!!」
鮮血が爆ぜる光景を前に、双眸を凍らせる。
「グブゥウウウウウウウウウッ……!」
紅い紅い、猛牛。
全身を真っ赤な液体で彩った二メドル強のモンスターが、遥か高いダンジョンの天井に向かって顔を振り上げる。
「フヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
大音声。
鼓膜を食い破るかのような吠声に打ちすえられ、ゲドは危うく尻餅をつきそうになった。
肉質的巨躯。全身凶器。そして本物の重圧感。
ミノタウロス。
モンスターの代名詞の一つに数えられる真性の化物が、手に持った大剣で冒険者を断殺してのけていた。
始まりは、複数の冒険者が一人の偉丈夫を取り囲んでいるところを目の当たりにした時だ。
立ち寄ったルーム内に広がっていた熾烈な争い。それはおよそ上層に相応しくない実力者達が繰り広げる、凄まじい交戦だった。
ソロの冒険者を狙った略奪行動かと最初は目を疑ったゲドだったが、孤立している獣人の装備に刻まれたエンブレム――黄金の首飾りで縁取った戦乙女の
獣人の所属する【フレイヤ・ファミリア】は敵が多い。主に、神フレイヤの美貌に対する女神の嫉妬的な意味で。
神フレイヤは面白がって軽くあしらっている節を見せているが、彼女の眷族がソロでダンジョンに潜ろうものなら、ここぞとばかりに付け狙われるのも頷けるものであった。
また、この時のゲドはあずかり知らないことではあったが、18階層にて一人留まっていたオッタルの目撃情報はこの一週間の間に流布されていた。
今回の戦闘は突発的なものではなく、今がチャンスと目を光らせたとある女神の計画的な襲撃だったのだ。
己の知る世界とは別次元の攻防劇にひたすら喉を鳴らしていたゲドだったが、そこでふと気付いた。
数の差をものともしない武人オッタルが、背後に物資運搬用の大型カーゴを守るようにして戦っていることを。
そしてそのカーゴを、オッタル達とは別の三人組のパーティが盗み取ろうと、通路の影から機を窺っている光景を。
そこが運命の分かれ道。
隙を突いて瞬く間にカーゴをかっさらっていた男達と同じ下卑た笑みを浮かべ、ゲドはすぐにそこから踵を返した。
――あの冒険者達が奪ったカーゴを、再び自分が横からかっさらう。
オッタル達とは異なり冒険者グループは自身と実力が拮抗しているだろうと肌で感じ、ゲドはすぐさま企みを働かせたのだ。
響き渡ってきた怒号には心底肝が冷えたが、むしろそれだけだ。オッタルは敵勢力に抑え込まれ、すぐに身動きは取れまいという確信があった。
男達の逃走ルートを予想しつつダンジョンを急いだ。あれだけの規模のカーゴである、距離を稼ぎたくてもそう簡単にはいかない。
恐らく第一級であろう冒険者の戦利品、一体どれほどの価値があるのかとゲドは心を浮き立たせた。
先日パルゥムから奪い取った……手に入れた魔剣の件といい、自分はついていると、そう信じて疑わなかった。
そして。
男達を発見し、まさにカーゴを開放させようする瞬間に間に合ったゲドは、それを見ることができた。
カーゴに“封じ込められていた”中身を。
鎖で雁字搦めにされ束縛されていた、ミノタウロスというモンスターを。
例外なく、その場にいた者達は思考が真っ白に染まった筈だ。そしてすぐに、視界が真っ赤に染まったのも同じ。
片方の角をへし折られ、鼻息荒く興奮していたミノタウロスは、あっという間に鎖を引き千切り、側にいた冒険者を潰れたトマトに変えた。
この世の終わりのような悲鳴に祝福されながら、ミノタウロスは歓喜に迸ったのだ。
「ひぇあっ……!? ひひゃああっ!?」
仲間を無残に殺された獣人の男が、壊れた笛のような声を出しながら逃げ惑う。
地面から伸びた草原は血の海に沈んでいる。事切れた男達は塗料となり、凄惨な光景に一役買っていた。漂うのは濃厚な死の気配だ。
見捨てた仲間にカヌゥと呼ばれた冒険者は、しかし冷静な判断を失っているのか、ルームの隅へと自らを追いやった。
ミノタウロスはいっそ雄邁な足取りで、背を晒すカヌゥへのしのしと歩み寄っていく。
カーゴに入っていた大剣を装備するモンスターの姿は不自然なほどに様になっていて、ゲドは、自分の見ているこの絵が酷く現実離れしているように見えた。
「!? いっ、行き止まっ……!?」
「ヴゥンンンンンンンンッッ……!」
「うあああああああああああああああああああっ!?」
自分の位置を理解し惨めな一人芝居を演じるカヌゥを、ゲドは笑うことができない。
体も頭も動かせないまま、顔色だけを絶えず変化させ、視線がその一点へ釘付けにされる。
「ゴォオオッ……!」
「な、何でだよっ、何でてめぇが、
壁を背にして発狂するカヌゥを、ミノタウロスは肩を上下させながら見下ろした。
ずるずると音を鳴らしながら地面にへたり込む“敵”を前に、モンスターは本能に従うまま大剣を構える。
筋肉質な体躯がギリギリと絞られ、まさにその姿は断頭台を彷彿させた。
黒い巨影がカヌゥを覆い隠し、絶望が彼の顔に差す。
もはや言葉になっていない喚き声がルームを盛大に木霊し、転瞬。
「ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウンッッ!!」
ドゴンッ、という剣が振り下ろされた轟音が炸裂し。
グチャ、とミノタウロスの体の奥で、真っ赤なペンキが飛び散った。
「……ぁ?」
盛り上がった背中に阻まれ、一人の冒険者がどんな肉塊に成り下がったのか、ゲドの位置からは確認できない。
ただ壁と床にこびりついた紅い体液と肉の欠片が全てを物語っている。
隠れることも忘れ棒立ちになり、通路の陰から一部始終を見たゲドの口から、乾いた呟きがこぼれ落ちた。
「――ヴ」
そしてその音は、ミノタウロスの耳に届いた。
振り返りあらわになる筋張った顔面。血化粧をした凶悪な面が、瞳をぎょろりと転がしゲドの体を射抜く。
心臓に楔が打たれたように全身が硬直し、呼吸が不細工に引き攣った。
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
逃げ出す。
反転し、あらん限りの力でダンジョンの床を蹴りつける。
威嚇の雄叫びが残響する中、ゲドは全速力でその場を離れた。
すぐに槌を地面に叩きつけるかのような超重量の駆け音が続いてきて、瞳孔が己の意思を離れて広がった。
あまりにも醜悪な死神が、凄まじい速度で追いかけてくる。
(ふ、ふざけっ――!?)
呼吸がおかしい。舌が干上がる。意味をなさない思考が再三に渡って弾けていく。
頭の中に埋まっている脳が沸騰しているかのようだった。熱い。とにかく熱い。
狂ったように、汗が溢れ出してくる。
ゲドはなりふり構わず走り続けた。足が何度ももつれそうになる中、ひたすらに。
現在は深夜。周囲に冒険者の影は見当たらない。無人のダンジョンは今のゲドにとってまさに迷宮のようであり、いくら走っても同じ景色から脱出できていないような気がした。
近寄ってくるモンスターがいれば進路を大きく変え、空いている道へとその身を突っ込む。
とにかく前へ。とにかく距離を。平静さなど放り出し、とにかくこの恐怖からの解放を望んだ。
どこをどう走り辿ったかなどわからない。ただ死に物狂いで足をこぎ続けて。
気が付けば、ゲドは袋小路に入っていた。
「かっっ……!?」
眼窩から目玉が飛び出そうになった。
絞り出したような声の破片が喉から漏れる。両目をわなわなと震わせた後、ゲドはばっと後ろを振り返った。
あの鳴動するような足音は途絶えていた。鼓膜が痺れるほどの静寂が一瞬訪れる。
次の瞬間、ぬぅっ、と。
片角のミノタウロスが、曲がり角から顔を出した。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」
絶叫を散らす。一度線を越えてしまえば、パニックに陥るのは容易かった。
ミノタウロスは大剣の柄をギリギリと握り締めながら完全に角から姿を現す。確かな質量と大きさを誇る金属塊は、その巨身と見比べると、ごく普通の片手剣にしか見えない。
浅く開かれた歯の奥から獰猛な呼気が吐き出される。
血走った目と、赤く錆びた銀の光を放つ得物が、次の贄に飢えていた。
「く、来るんじゃねぇえええええええええええええええええええっ!?」
ゲドは腰に手を回し紅色のナイフを取り出した。
緩慢に踏み寄ってくる化物に向かって『魔剣』を振り抜く。
「グヴゥッ……!」
「来るなっ、失せろっ、消えやがれええぇッ!!」
炎の塊がナイフより放出されミノタウロスに当たる。
ゲドはでたらめにナイフを振るい、何度も劣化した魔法をぶつけた。逃げ場を失った空間の中で小爆破が連続する。
煩わしそうに太い腕を振るうモンスターに、ゲドは壊れたように魔剣を閃かせ続け……やがて紅の刀身がバキリと音をたて、木端微塵に砕け散った。
「は……はぁああああああああっ!?」
寿命が尽きたかのように光を失った刃は、無数の鉄屑となって地面に散乱した。
驚愕の声をあげながらその黒い目を剥く。魔剣が使用限界を越え自砕したのだ。
最後の最後でゲドは武器に裏切られた。
「フゥーッ、フゥーッ……!」
「ひ、ひぃいっ!?」
火の粉を引き連れるモンスターが目の前までやって来た。
怒りに染まった双眼が、ゲドを睨みつけている。
やがて巨大なシルエットは上腕の筋肉を膨張させ、剣を大上段に振り上げる。
「やっ、止めえええええええええええええええええええええええええええええええええっ――――」
額が叩き割られる感触とともに、ゲドの意識はあっさりと潰えた。